8.25.2020

「人喰いザメは存在しない」屋久島に打ち上げられたマッコウクジラとイタチザメの記録



2020/8/24 屋久島・一湊


マッコウクジラの死骸を食べにきたイタチザメ

2020年8月23日、屋久島の一湊の海岸にマッコウクジラが打ち上げられる。
体長は11mでオス、座礁の理由は分からない。
太陽の熱で膨張したようで血が流れ始める。
翌24日朝にはイタチザメが集まり鯨の捕食を始めた。
空からの確認では2−3mのイタチザメが7頭程度。

今回は記録写真と共に、サメに対する偏見、サメの餌付け、
などについて書いてみた。

イタチザメはホオジロザメに次いで危険なサメと言われているし、
漁師の魚を横取りするので、一般的には嫌われている。
しかしサメに対するイメージはあまりにも偏見に満ちている。
いうまでもなく映画のジョーズや、近年では手軽に見れるど
迫力のホホジロザメの映像などの効果だろう。
サメは怖いもの、悪者というレッテルはサメの生態が分かりつつある
現代でも全く変わっていない。
僕は良く一人で海に潜るから、サメなどのことを意識することも多い。
もちろん怖い。
でも僕のサメに対するイメージは、可愛そう、だ。
人間からしたら圧倒的に弱者であり、
いじめ抜かれている種でもある、サメという生き物について
少し考えてみたい。

フカヒレの材料としてヒレだけ切除されて海に捨てられるサメがいる
ことは多くの人が知っているだろう。
漁船に乗せてもらうと、狙いの魚の他にサメが混じっていることも多い。
その場合、このサメはどうなるかわかるだろうか?
僕が見たいくつかの例では殴られ、蹴られ、とどめを刺されるなどして
海に突き落とされるというものだった。
サメを生きたまま海に返せば、魚を食べる(漁師の取り分が減る)からだそうだ。
単純にサメがいなくなれば、自分が儲かると思っているとしたら
それは大きな誤りだ。
サメが海の生態系の頂点に君臨していることで海はバランスを保てている。
頂点がなくなれば、生態ピラミットは崩壊するだろう。
このバランスを考えないことには漁師が儲かる未来は日本にはこない。

海の生き物でもっとも絶滅危惧種が多いグループもサメだ。
それでも サメ=悪 のイメージは根強く
日本では保護しようなんて発想はほとんどない。

世界に500種くらいいるサメの中で危険性があるのは、わずか数種類だ。
実に可愛らしいサメが海にはたくさんいる。
ブログのタイトルは「人喰いザメは存在しない」としたが
もちろんサメによる死傷者はたくさんいる。
それでも死者の数で見れば雷に打たれて亡くなる人の方が多いのだとか。


初めは別のタイトルだったが語弊がありそうだったので変更した。
この記事を見て上手い表現だなと思ったのだ。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55624
シャークジャーナリストとして活動している沼口麻子さんの記事と本。
思わずAmazonにとんでポチッとしてしまった。


サメ=人食い
この図式は40年以上前の映画が作り上げたイメージでしかない。
この鮮烈なイメージを払拭するには一重に努力しかないと思う。


「人喰いザメは存在しない!」


これを念仏のように唱えることで、
サメを取り巻く問題についての正常な判断が下せるようになるのだと思う。


では実際にサメに襲われる人たちは何なのか。
良く聞くのは水中で漁労をしている人とサーファーだろう。
その他事故のニュースがある度に理由を考えているが、
サメが好んで人を襲うことはない。
血が流れている魚を持って泳いでいれば、
サメが寄ってきて襲われることがある。
サーファーはボードに乗っている姿が鰭脚類(トドやアシカなど)に
似ていて、そのために襲われるというのが有名だ。
条件さえそろえば確かにサメが人間を襲うことはある。


しかし野生のサメは病的に臆病な生き物だと思う。
小さなクマノミは人間に果敢にアタックしてくるけど、
サメを水中で確認することは滅多にない。
ダイビングを終えて船に上がると、サメみたか?と船長が聞くことがあるが
この場合でまともに見たことはない。20mくらいの遠くにチラッと影だけとか
そんなものだ。
臆病だからこそ何億年も海で生きてこれたのだとは思う。
ダイバーに対してはボンベの泡を異様なものと認識しているのだろう
普通は近づいてこない。


少し話は変わる、


他国では、イタチザメに餌をやって水中で囲いもなしに、
それを観察するという餌付けショーが人気だ。
そして僕はこの餌付けショーが嫌いだ。
それは生態系の頂点に立つサメ(人間を殺傷するほどに力のあるもの)を
人の手により餌を与えることで、サメの本能が狂ってしまうからだ。
さっき書いた通りサメが水中でダイバーに近づいてくることは、
まずないと言える。
しかし度々人の手による餌付けを行われたサメは、
人間=美味しいものをくれる人、そう認識するだろう。
小魚でさえその性質があるので、知能の高いサメなら尚更だ。
それはやがて本来の人とサメとの距離感を崩すこととなり、
人間は怖くない生き物と認識される。
その結果、人が襲われるという事態は容易に想像がつく。


僕の敬愛する写真家は人による餌付けを覚えた熊によって亡くなった。
異様な行動をとる熊についての驚きが、最後の手記には残されていたらしい。
その人は野生の熊には精通した方だった。
僕は熊については何にも知らないが、
サメとクマのそれぞれが立つ生態的地位(ニッチ)は同じだ。
人が関わるべきではない生き物もいるのだ。


今年の頭に南オーストラリアで潜っていたが、
その時の単独潜水は怖かった。
500キロほど離れたあたり、ポートリンカーンという場所の沖合で
ホオジロザメの餌付けによるケージダイビング
(人間が囲いに入ってサメをみる)が行われているからだ。
こういった自然の撹乱が巡り巡って自分たちの首を絞めている。


自然と向きあうための遊びであるダイビングで
真逆のことが行われていることは悲しい。







マッコウクジラの尾鰭に噛みつくイタチザメ
マッコウクジラはキレイな状態で打ち上げられていた(ストランディング)
ので噛みつく場所が難しいのかもしれない。
尾鰭や顎のあたりばかりを食べていた。






マッコウクジラが11mなのでイタチザメは3mくらいだろうか。



初日は生きているのかと思うほどキレイな状態だった。


以下はFacebookに載せた記事の引用です。


”昨日打ち上げられたマッコウクジラ(11m)にイタチザメが寄ってきた。
空撮で確認できたのは7匹。大きさは3mくらいだと思う。
屋久島の各所から地域住民が集まり鯨とサメの観察会のようになっていた。
子供に自然の摂理を体感してもらうにはこんな圧倒的な光景が一番だろう。
現在は浜への立ち入りが禁止になってしまった。良く分からないものは
禁止にしてしまうのが楽な方法だけど、この貴重な体験を
間近でさせてあげたいと思うのはおかしいのだろうか。
県と町に電話をしたけどやる気のない対応で残念だった。
近くで生臭い匂いを嗅いで、鯨肉を食べるサメを観察することは、
どんな教科書を読むよりも大切なことを教えてくれるように思う。”




ここで浜への立ち入りが禁止になったと書いたが
その理由は、遊泳者がいて危ないこと、また鯨が爆発することが
主な理由だそうだ。


そのうちの遊泳者に僕は含まれている。
このことでダイビング事業者としてのモラルがどうのこうのと
言われたりもしている。
ちなみにモラルには自信はないが、
禁止されていることをしてまで撮影をすることはない。

僕が海に入ったことが原因の一つで砂浜への立入が禁止
になったのであれば、申し訳ないと思う。
仮にそうであれば遊泳禁止が妥当なところ、砂浜への立入禁止は
鯨が爆発云々の話が大きい。
いずれにしてもサメへの恐怖心が大きいのだろう。

確かに遊泳者が続々と現れたら困ったことだと思うが、
あの光景を眺めながら海に入る人間は、そういないだろう。
サメが自然状態で人間を襲うことはないと、僕は確信しているが
それでもやはり捕食のシーンを目の当たりにして気後れしたのは事実。

目の前の光景をただ記録したい。
いつも海に潜って撮影しているのと寸分違わず同じだ。
何も恥ずべきことは一切していないので
正々堂々と海と向き合ったと思っている。

ちなみに水中撮影している間に、励まされることは
あっても罵倒を浴びせられるようなことはなかった。
子供たちは信じられないものを見るような目つきだったと思う。
それこそ本当に子供に見せてやりたい光景でもあった。
自分の目で見たものが真実である。

久しぶりに長文になってしまったが、少しでも
海のことを考えるきっかけになってもらえたら何よりです。
またサメへの偏見は捨てて欲しいと願っています。


「人喰いザメは存在しない」









こちらはドローンで撮ったマッコウクジラとイタチザメ。
空撮だとサメの捕食の様子や現場の様子がよくわかりますね。

ではでは。